2019年5月11日土曜日

落下菌/五十嵐彪太

 菌は焦っていた。菌に焦るという感情や思考があるのかどうかは置いておいて、焦るというしかない状況であった。
 仲間たちは、次々と落下傘を開いて、それぞれの培養に適した地を目指している。
 しかし、焦る落下菌は、なぜか落下傘が開かない。落下傘が壊れたのだろうか。そんなことがあるだろうか。落下傘を開いて降りるのは、この菌の元から備わった機構であり、能力であるはずだ。
 落下傘が開かないなら落下菌ではなく、墜落菌だ。
 運よく、シャーレに着地しそうだから、きちんと同定、並びに「墜落菌」と呼んでくれたまえ、そこの学者。