ラベル 59.雲狩 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 59.雲狩 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2020年10月10日土曜日

雲狩/五十嵐彪太

 「父ちゃん、巻層雲、採れた」
「おおー、これはいい巻層雲だ。きれいに採れたなあ」
 6歳になる息子は、雲狩の能力を私の親父から受け継いでしまった。
 親父は孫の顔を見ることなく死んだから、息子は誰に教わるわけでもなく雲狩りの技術を日々伸ばしている。
 父である私にはさっぱりその力はない。親父からも息子からも採取した雲の標本を自慢され、それを整理するのが間に挟まれた私の役割となってしまった。
 本当は、息子に雲狩になって欲しくなかった。親父は秘密裡に台風やハリケーンの制圧を幾度となく頼まれた。あまり長生きできなかったのも、大きな台風に挑んだ際に負った怪我が祟ったからだと思っている。
 台風情報を見ながら息子が呟く。
「おれ、もう少し大きくなったら、台風やっつけに行かなきゃいけないよなー」
 なんとも曖昧な返事をしながら、気象予報士の試験勉強をしてみようかと考える。それくらいしか、息子を支える方法を思いつかない。

雲狩/立花腑楽

  雲は岩の根より生じ、長い長い熟成期間を経て、やがて神話となる。
 もっとも昨今では、あまり熟成の長さなんて問題にしない。
 みんながみんな、自分自身の神話を欲しがってて需要超過なのだ。
 熟成など待っている暇もない。編纂所に持ち込まれた雲は、ほんの一晩だけ漬けこまれた後、即席神話として出荷される。
 俺ら雲狩人も大忙しだった。毎日毎日、峻険に分け入り、湧き出たそばから雲を狩り取っていく。
 おかげで、ここいらの雲はあらかた取り尽くしてしまった。
 連日、灼けるような旱天が続いている。作物はすっかり立ち枯れている。
 立ち枯れそうなのは俺だって同じだ。雲が狩れないと、飯が食えない。
 ここいらが潮時だろうか。
 雲ひとつない空の下、俺は旅具を背負う。広い世界、まだどこかに雲出づる山はあるだろう。