2020年9月5日土曜日

時刻不詳/五十嵐彪太

 当初は、個人的に時計の読み方を失っただけだった。アナログ時計は針も数字もクルクルと愉快そうに回っている。デジタル時計もチカチカと楽しげに点滅していて数字を判別することができない。
 病気かと思ってあちこち病院に行ったが、どの科でも「時計が楽しそうなら、まあいいでしょう」と言われて終わってしまう。
 それでも太陽の動きで夜・日中・夕方くらいがわかるうちはよかった。世の中はきちんと時刻通りに動いていたから、それに倣えばよかった。
 だが、次第に一日中うすぼんやりと曇りの日ばかりになってくると、時計が読めなくなる人がどんどん増えた。
 それでもやはり「時計が楽しそうだから、まあいいや」と、人々も時計に合わせてクルクル踊っている。なにせ昼も夜もないので、ずっと踊っている。だが、そのリズムがきっちり1秒を刻んでいることに、皆は気づいているだろうか。……私は再び秒針の動きが見え始めたのだ!

時刻不詳/立花腑楽

 その街の時鐘が鳴らなかったのはのは、たったの一日だけだった。
 それは、時計塔の管理人がお嫁さんを迎えた日だった。
 街の人たちは、その日だけは時間なんて存在しないものとして過ごした。
 その後、時刻不詳の一日から復帰できない人々もいくらか居たわけで。
 そのことを言われるたび、時計塔の管理人は申し訳なさそうに頭を掻いた。