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2019年11月22日金曜日

ソの島の奥/五十嵐彪太

 上陸した途端、すべての音がGだった。
 木々の揺れる音、自分の足音。
 小石を落として、別の石にぶつかる音も、G音。
「この島……なんか、音がおかしくありません?」
 絶対音感がない同行者でも気が付いたようだ。
「ああ、ドレミで言うと、『ソ』だね」
 地図にない島が見えると司令部に連絡したのは三日前。
 返ってきた「その島へ直行せよ」という命令は「その島」ではなく「ソの島」であったか。
 島を探索する。鳥の声は数種類は聞こえるが、どの囀りもG音。
 果物をもいでも、それをかじっても、咀嚼しても、G音。
 島の奥には大きな岩穴があった。植物の蔓で出来た縄が張ってある。ここが何かしら、神聖な場所の入り口であることを示していることは明確だった。
 「入りますか?」
 同行者の話し方も抑揚が少なくなり、G音に近づいている。
 「入ろう」
 私の声もいつもより高い。「隈なく調査せよという命令だ」と続けた声は、完全に抑揚のないG音だった。
 洞窟。足音が響く。水滴が落ちる。耳鳴りのような奇妙な歌が聞こえてきた。ソの島の奥へ、吸い込まれる。

ソの島の奥/立花腑楽

 その島の名称については諸説ある。

 一書に曰く――。
 島奥の洞穴に、地底に通ずる大穴あり。
 本邦の根源一切この穴より生ずと云々、島人の伝承にあり。
 故に本島、祖の島と名付く。

 また一書に曰く――。
 島奥の洞穴に、地底に通ずる無数の小穴あり。
 雨水この小穴より漏れ、根の国を潤すと云々、島人の伝承にあり。
 故に本島、粗の島と名付く。

 さらに一書に曰く――。
 島奥の洞穴に、地底に通ずる無数の小穴あり。粘土を掘りたる跡なり。
 古人、呪いのために土人形を盛んに塑像すと云々、島人の伝承にあり。
 故に本島、塑の島と名付く。

 などなど、諸説紛々ではあるが、「穴」がキーワードであることは間違いない。
 その謎を解くべく、熱い学究の志を胸に、問題の穴に飛び込んではみたものの、未だに穴の底にたどり着けないでいる。
 落下しながらも、とりあえず論文の「はじめに」までは書き終えてしまったが、はてさて、真理に至る道未だ半ば、といったところである。