ラベル 60.丸い手紙 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 60.丸い手紙 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2020年10月18日日曜日

丸い手紙/五十嵐彪太

  筆まめな恋人は、毎日のように手紙を送ってくれる。便箋はいつも正円だ。真ん中に小さな穴があるから、コンパスを使っているのだろう。
 書き方は一様ではない。縦書きのことも横書きのこともある。中心から渦のように書いてあることもあったし、外側からぐるぐる書いてあることもある。
 恋人の書く字はあまりにも小さく、そして少し神経質な感じがする。細かな文字が隙間なくみっしり並んだ丸い紙から、書き出しの「愛しい人へ」を探し出すのはいつも困難だ。
 目を瞬き、指でなぞり、必死で始めの言葉を探す。恋人の匂いが立ち上るような文字の中を分け入り、なかなか出てこられない。

丸い手紙/立花腑楽

  郵便受けに小さな惑星が入っていた。
 作られたばかりと見えて、所々柔らかく、点在するにきびみたいな火口から煙が上がっている。
 それでも、すでにわずかばかりの住民が暮らし始めていて、うごうごと原始生活をしている様が何ともいじらしい。
 そのうちの一人が私に気づいて(彼らから見れば、私は世界に覆いかぶさるような大巨人に見えるだろう)、しきりと何かを訴えようとする。そして、あれよあれよという間に、惑星中の老若男女が集まってきて、天を仰ぎながら、てんでバラバラに喋り始める。
 声は小さいし、表現は稚拙だが、それでも数が集まれば、それなりの情報量になる。
 彼らの言わんとすることは、つまりこういうことらしかった。
「我々とこの惑星は、我々の造物主からあなたへの贈り物なのです。十分な水を与えて、よく陽の当たる場所に置いてください。きっと豊かな緑の星となることでしょう」
 素敵な贈り物だ。是非ともお礼がしたいと思った。
 しかし、どの住民に尋ねても「口にするのも畏れ多い」と言って、造物主の名を教えてくれない。