2020年10月18日日曜日

丸い手紙/五十嵐彪太

  筆まめな恋人は、毎日のように手紙を送ってくれる。便箋はいつも正円だ。真ん中に小さな穴があるから、コンパスを使っているのだろう。
 書き方は一様ではない。縦書きのことも横書きのこともある。中心から渦のように書いてあることもあったし、外側からぐるぐる書いてあることもある。
 恋人の書く字はあまりにも小さく、そして少し神経質な感じがする。細かな文字が隙間なくみっしり並んだ丸い紙から、書き出しの「愛しい人へ」を探し出すのはいつも困難だ。
 目を瞬き、指でなぞり、必死で始めの言葉を探す。恋人の匂いが立ち上るような文字の中を分け入り、なかなか出てこられない。