2021年4月4日日曜日

理義字/五十嵐彪太

  漢字を覚え始めたばかりの子が画用紙に林の字をさらに並べて大きく書いた。
林林
「理義字をさらに重ねたらリギリギジだな」と言う。
「リギリギジ?」と子が言う。
 するとグラリと視界が揺れ、我々は鬱蒼とした林の中にいるのだった。変わったことと言えば、きっちり同じ形の樹木が二本ずつ並んで立っていることだった。
 子が「火火火火」と書く。
「火は上下に重ねるんだ」
「炎」と改めると、更に「燚」に書き替えた。
「リギリギジ!」
 二本組の樹木が次々と綺麗に燃え上がっていく。しまった、森林火災だ。
 淼の字はリギリギジとは認められなかったようだ。単なる理義字か品字様だということだろう。苦し紛れに雨を幾つ並べて書くが、何も起きない。
 ついに画用紙が燃え始めたが、子は磊磊落落、ケタケタ笑っている。

理義字/立花腑楽

 「FF」と表記する。これで漢字一文字だ。
 読み方は知らないが、有限の終わり、転じて世界の終わりを示す一文字だ。
 世界はいずれ「FF」の日を迎え、そっと終わるのだろう。
 誰も彼もそんなことを考えながら、日々をぼんやりと過ごしている。
「本当は内緒なんだけどね、そのずっと先もあるんだよ」
 彼女はそう笑いながら、聖典に記載された「FF」の下に、もう一つ「FF」を書き足した。
 2×2にならんだF。それをとんとんと叩く指。世界がデジタル震でジジジと揺らぐ。
「ぼくらはまだまだ進化するよ。8の世界から16の世界へと」