水割りを作りながら「あたし昔は天女だったの」とママが言った。天人五衰の兆しがあり、それで潔く天界を飛び出してきたらしい。
酔客の一人が「羽衣着て店に立ちなよ」と茶化す。
「いやよ、年甲斐もなく浮かび上がったらどうすんのさ」
ママも客たちもけらけら笑い、儚い人界の一夜が更けていく。
森星霜
2026年1月30日金曜日
#冬の星々140字コンテスト「天」投稿作/立花腑楽
2026年1月29日木曜日
#冬の星々140字コンテスト「天」投稿作/立花腑楽
空飛ぶ赤いおじさん。その共通点から愛息はサンタクロースと天狗を混同しているらしい。
私は懇々と説明し、彼の脳内の「聖夜にプレゼントをくれるおじさん」概念から天狗を分離させることに成功した。
すると今度は「じゃあ天狗はいつ何をくれるおじさんなのさ」という新たな疑問を突きつけられた。
2026年1月28日水曜日
#冬の星々140字コンテスト「天」未投稿作/立花腑楽
天竺鼠が抹香臭い話ばかりするので、隣の檻の金絲猴はすっかり感化されてしまった。
さすが天竺からいらした鼠様だと心酔しているが、生憎彼は南米の生まれだ。
さらに隣の檻では、同郷同属のカピバラが「ぼくの和名が鬼天竺鼠だと知ったら、金絲猴くん、どんな顔するかな」と草を食み食み考えている。
2026年1月27日火曜日
#冬の星々140字コンテスト「天」未投稿作/立花腑楽
冬の陽光は天窓でトリミングされ、部屋の一画にきっかり真四角の聖域を落としている。
そこに神殿を作ろうと、異国の菓子箱、アラビア詩集――あるだけのお気に入りを積み上げる。ところが、志半ばでその神殿は崩落した。神の怒りを被ったのだ。
奪還した陽光を浴びながら、怒れる神はにゃあんと吼える。
2025年10月31日金曜日
#秋の星々140字コンテスト「後」投稿作/立花腑楽
仕事からの帰路、影踏み鬼から告白を受けた。
私の影は践み心地がとても素敵で、このままずっと踏んでいたいのだそうだ。
いいですよ。私の影、もう消えちゃいますけど。
そう答えて、間もなく沈みゆく夕日に目をやる。
背後の気配がぎゅっと凝り、やがて名残惜しげな溜息が私の首筋をくすぐった。
2025年10月30日木曜日
#秋の星々140字コンテスト「後」投稿作/立花腑楽
まだ若い僧侶だが、剃髪したての艶めかしい後頭部に「差押札」が貼られていた。
「前世からの罪業がついに贖いきれず、かような事態に」と、本人は一見しおらしくしているが、「まぁ拙僧は読経の声がいいので、この頭の功徳だけで十分お釣りがくるでしょう」とか言い出したので、何だこいつと思った。
2025年10月29日水曜日
#秋の星々140字コンテスト「後」投稿作/立花腑楽
星の子を孕んだと、宮女の一人が告白した。少し前、後宮の上空を流星群が通り過ぎた。その夜に過ちがあったという。
寛大な王は「天が授けた子は、朕の子も同然」と、彼女を大事にした。すると、その後になって、実は私もと言い出す女が跡を絶たず、やがて宮廷中に星の子らの産声が響くことになった。
++++++++
二次選考通過