『てのひら怪談 : ビーケーワン怪談大賞傑作選』
ポプラ社 2007.2
「吉田爺」収録
ポプラ社 2007.12
ポプラ社 2010.6
ポプラ社 2011.6
ポプラ社 2012.6
読むスープ 薫賞受賞 2014.4.12
『言葉の舟』刊行記念140字小説コンテスト優秀作作品集
2024.10
『てのひら怪談 : ビーケーワン怪談大賞傑作選』
ポプラ社 2007.2
「吉田爺」収録
葦船の中は保育器みたいに快適だった。
それでも蛭子は父母に遺棄されたことが悲しくて、しくしく泣いた。
やがて、船が大海に流れ着いたころ、蛭子は髭面の男神に拾われた。
「お前も母がおらぬか。俺もだ」
髭面がくしゃっと幼くなり、蛭子を抱いたまま海に向かってわんわん泣き出してしまった。
俺みたいな風説士は食っていけない世になった。風説の流布が禁止されたからだ。
かつての馴染み客に駄法螺を密売して糊口を凌いでいたが、最近は自棄になって「こんな世界終わっちまうよ」としか騙っていない。
客はうんざり顔で「また同じネタかよ」と文句を言うが、代金はきっちり払ってくれる。
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一次選考通過
サンキュとだけ言って、体育館に戻っていった。
慌てて呟いた「安静にしなきゃ」は、彼の背に追いつけなかった。
半分に切った湿布を手に、西日差す保健室に取り残される。じわじわ蝉が鳴く。あの青痣は確かこのあたりだったろうか。自分にも湿布の片割れを貼り付ける。冷たくて、ひゃっと声が出た。
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一次選考通過
眠れなくて祖母の部屋に行く。彼女は魔女なので夜更かしなのだ。
「毛布をしばらく窓の外に掛けておくといい。月光浴が不十分で眠りの力が弱まってるのさ」
そんなおまじないより、一緒に寝て欲しいと訴える。
「いいから言う通りにやってみな。小さな魔女さん」
偉大な師匠は私の額にキスをする。
水割りを作りながら「あたし昔は天女だったの」とママが言った。天人五衰の兆しがあり、それで潔く天界を飛び出してきたらしい。
酔客の一人が「羽衣着て店に立ちなよ」と茶化す。
「いやよ、年甲斐もなく浮かび上がったらどうすんのさ」
ママも客たちもけらけら笑い、儚い人界の一夜が更けていく。