引っ越してまもなく、駅までの道にしょっちゅうエビフライが落ちていることに気が付いた。
揚げたてと思われるエビフライがアスファルトに落ちているさまは滑稽で、初めて見た時は大笑いしながら帰って家族に話したものだ。
ところが、それが二度三度となり、家族からも同じく目撃情報を聞くと不思議を通り過ぎて不審に思うようになった。
だがそれも一時で、間もなく「いつものこと」として慣れてしまい、気にならなくなった。
事態が変わったのは、娘の「目撃情報」だった。エビフライを咥えて走り去る動物を見たというのだ。
もう暗くなりかけていたが、家族全員でその動物が去っていった方を探索することにした。ちょっと思いついて、急いでエビフライを揚げて、それも持って行った。
娘が指さした方角は、まだ散策したことがなかった。急に家も街灯も少なくなって寂しい道だった。しがみつく娘を引き寄せ、見回しながら歩くと、やはり。小さなお稲荷さんに、汚れたエビフライ一本と、きれいな油揚げが一枚。誰にでも好物はあるのだ、きっとどこかでエビフライを盗……いや、拝借してくるのだろう。
「時々、エビフライ持ってお詣りに来ようね」
2020年4月22日水曜日
道にエビフライ/立花腑楽
銃弾が尽きたので、エビフライを撃ち合っている。
矢弾尽き、刀も折れ、兵糧だって風前の灯だが、なぜだかエビフライだけは潤沢にある。
エビフライは兵糧にはならない。我国も敵国も、エビフライには飽き飽きしている。
そりゃエビフライに殺傷能力など無いが、ライフルに詰め込んで撃つには、ちょうどいい形状なのだ。
まぁ、死なぬにしても、あのトゲトゲが当たれば少しは痛かろうよ、という戦術的理由も無いでもない。
そうした次第で、我軍も敵軍も、日がな一日、エビフライを鉄砲に詰めては撃ち合っている。
今日はちょっと前線が動いたらしい。
我軍が通った道の、そこかしこにエビフライが転がっている。
腹をすかした野犬どもが、後ろ足で砂を引っ掛ける。
矢弾尽き、刀も折れ、兵糧だって風前の灯だが、なぜだかエビフライだけは潤沢にある。
エビフライは兵糧にはならない。我国も敵国も、エビフライには飽き飽きしている。
そりゃエビフライに殺傷能力など無いが、ライフルに詰め込んで撃つには、ちょうどいい形状なのだ。
まぁ、死なぬにしても、あのトゲトゲが当たれば少しは痛かろうよ、という戦術的理由も無いでもない。
そうした次第で、我軍も敵軍も、日がな一日、エビフライを鉄砲に詰めては撃ち合っている。
今日はちょっと前線が動いたらしい。
我軍が通った道の、そこかしこにエビフライが転がっている。
腹をすかした野犬どもが、後ろ足で砂を引っ掛ける。
2020年4月12日日曜日
遠隔遊戯/五十嵐彪太
久しぶりに宇宙からビー玉が転がってきた。覗くと吸い込まれそうになる。澄んだ泉のよう。いや、泉ではなくて、宇宙なんだ、と思い直す。
古いピンボール台にセットして、弾くと地球のビー玉とは違う動きをする。まだ重力に慣れていないのかもしれない。
何回か遊んでいると、地球仕様のビー玉になる。覗けばやっぱり綺麗、だけど吸い込まれるような感じはなくなってしまう。
そうなったら、宇宙に返す頃合いだ。星のよく見える晩、ピンボール台を庭に出す。何度か弾いているうちに、ビー玉は宇宙に飛んでいく。
宇宙のどこの誰が、どうやって遊んでいるのか知らないけれど、こうしてビー玉交換をもう六十年続けている。
古いピンボール台にセットして、弾くと地球のビー玉とは違う動きをする。まだ重力に慣れていないのかもしれない。
何回か遊んでいると、地球仕様のビー玉になる。覗けばやっぱり綺麗、だけど吸い込まれるような感じはなくなってしまう。
そうなったら、宇宙に返す頃合いだ。星のよく見える晩、ピンボール台を庭に出す。何度か弾いているうちに、ビー玉は宇宙に飛んでいく。
宇宙のどこの誰が、どうやって遊んでいるのか知らないけれど、こうしてビー玉交換をもう六十年続けている。
遠隔遊戯/立花腑楽
新しいゲームのダウンロードを待っているとき。
蹴り上げたボールが、中天の太陽と重なって眩しいとき。
湖底から拾い上げた翡翠石が、誰のよりも大きかったとき。
この人形には赤のほうが似合うなと気がついたとき。
引き当てた必勝のカードにそっと感謝を捧げるとき。
初めての曲を歌い上げたあと、ばくばく跳ねる心臓に冷たいウーロン茶を流し込んだとき。
あるいは、憎いあいつの頬っ面を、妄想のなかで思いっきり殴りつけるとき。
そんな何気ない瞬間、世界中のこどもたちの脳内にびびっと指令が下る。
矢も盾もたまらない。
ある者は手に入れたばかりのバイクに跨り、ある者は踵が潰れたスニーカを履いて。
またある者は、生まれて初めて体験する這い這いで。
行かなきゃ!
よくわからないけど、わかんないんだけど、新しい仲間を見つけなきゃ!
みんなが右往左往している。その様子を眺めるのが本当に楽しい。
「ママ、感度最高だよ」
ぎゅっと力をこめた掌のなかで、私のアンテナが――ママの小指が嬉しそうにぴくぴく動く。
蹴り上げたボールが、中天の太陽と重なって眩しいとき。
湖底から拾い上げた翡翠石が、誰のよりも大きかったとき。
この人形には赤のほうが似合うなと気がついたとき。
引き当てた必勝のカードにそっと感謝を捧げるとき。
初めての曲を歌い上げたあと、ばくばく跳ねる心臓に冷たいウーロン茶を流し込んだとき。
あるいは、憎いあいつの頬っ面を、妄想のなかで思いっきり殴りつけるとき。
そんな何気ない瞬間、世界中のこどもたちの脳内にびびっと指令が下る。
矢も盾もたまらない。
ある者は手に入れたばかりのバイクに跨り、ある者は踵が潰れたスニーカを履いて。
またある者は、生まれて初めて体験する這い這いで。
行かなきゃ!
よくわからないけど、わかんないんだけど、新しい仲間を見つけなきゃ!
みんなが右往左往している。その様子を眺めるのが本当に楽しい。
「ママ、感度最高だよ」
ぎゅっと力をこめた掌のなかで、私のアンテナが――ママの小指が嬉しそうにぴくぴく動く。
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