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2019年11月16日土曜日

風吹けば/五十嵐彪太

 近頃、指の輪っかに富士山を入れて写真を撮るのが人気なんだと。道理でオーケーサインをしている人をよく見るなあと思ったよ。富士見町や富士見坂、大混雑だ。
 そのうち輪っかのほうに凝る奴が現れて、はじめ指だったのが、指輪に富士山を入れるようになった。きれいな指輪に、ぴったり富士を収めようと夢中になる人がたくさんいた。ダイヤモンドの指輪がよく売れたらしい。
 ダイヤモンド富士の流行りが落ち着いたと思ったら「大きな輪と小さな富士の取り合わせがいい」なんて言って、富士見坂でフラフープやタイヤを掲げる奴が出てきた。迷惑な話だねえ。
 それで、今度は桶屋が儲かってるって知ってるかい? 「巨大な輪っかに入って富士山と写真を撮るんだ」ってさ!


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『点字物語「天の尺」~手すりで繋がる北斎の娘と私たち~』
葛飾北斎 尾州不二見原 より
2019年11月東京スカイツリー天望回廊にて展示

螺旋高楼/立花腑楽

 螺旋階段を登り切ったところで眺望が開けた。
 真っ青な空の下、遠くで富士山がきりりと輪郭を保持している。
 それを眺めながら深呼吸すると、ぐらり、足元がほんの少し揺らいだ。
 他の参詣者は「はてな」という顔をしている。あるいは気の所為と思ったかもしれない。
 だけど、その理由をぼくは知っている。
 この五百羅漢寺のさざえ堂、実は少しずつ成長しているのだ。
 霊峰富士を一目見ようと、毎日毎日、多くの参詣者が螺旋階段をぐるぐる登る。その勢いにつられ、螺旋階段自体もちょっとだけ回転する。
 回転すれば前に進む。それが螺旋というものだ。
 螺子を回すように、さざえ堂は今日もぐりぐり空を掘り進む。
「そのうち、ここから富士の火口だって見下ろせるようになるかもな」
 そう思った刹那、「今に見ておれ」と言わんばかりに、また足元がぐらりと揺れた。


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『点字物語「天の尺」~手すりで繋がる北斎の娘と私たち~』
葛飾北斎 五百らかん寺さざゑどう より
2019年11月東京スカイツリー天望回廊にて展示