2022年4月24日日曜日

青い鳥居/五十嵐彪太

 南の島に二つの神社がある。
 ひとつは海神様、もうひとつは空神様を祀っている。
 鳥居はそれぞれの神様こだわりのブルーで七年に一度塗り替えられる。
 塗料の調合は神様手ずから行われ、海神様は緑がかったラグーンブルー、空神様はそれよりすこし青が強いセルリアンブルーがお好みだ。
 だが、去年の塗り替えで海神社の鳥居と空神社の鳥居がそっくり同じ青になってしまった。「ちょっと趣向を変えて」と思ったら同じコバルトブルーになってしまったのだ。
 海神社の鳥居と空神社の鳥居は形が少し違うのだが、同じ色になったことで神様は頻繁に帰る神社を間違えるようになった。しばしば鉢合わせするようになった神様たちに島民はやきもきした。小さな島の神様同士がケンカでもしたら困るのは島民だ。
 だが島民の心配をよそに、神様たちは大いに交流を楽しんでいるようだ。
「当神社の青の宝物を海神様にもご覧いただき、御歓談に翡翠葛が咲いた」と、空神社の宮司は談話を発表した。

青い鳥居/立花腑楽

 暗い森の奥を目指して鳥居が幾重にも続いており、それらが不思議と青いのだ。
「ネオン糖でできているのです。舐めると涼やかな甘みがありますよ」
 禰宜はそう説明しながら、深奥へと私を誘う。
「赤い鳥居もいくつかありますね」
「それらはもう古くて劣化したものです。抜いてしまわないといけない」
 そんな会話を交わしながら、いくつもいくつも鳥居をくぐった。
 青、青、青、赤、青、青、赤、青、青……。
 暗い参道を歩けど歩けど、目的の社は見えてこない。森の胎内に分け入っている気分になる。
「お疲れですか。それなら、少し休みましょう」
 禰宜は腰を下ろし、傍らの鳥居をやたら長い舌でべろべろ舐めはじめた。
 私は興味本位で赤い方の鳥居を舐めてみたが、これがまったく舌が焼けるような酷い味で、
「ああ、あなた、何をなさっているのです」
 禰宜がひどく狼狽した口調で静止するものだから、私も何かとんでもないことをしでかしたような気になり、心臓が口から飛び出すほど跳ねるのを感じた。