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2019年5月11日土曜日

落下菌/五十嵐彪太

 菌は焦っていた。菌に焦るという感情や思考があるのかどうかは置いておいて、焦るというしかない状況であった。
 仲間たちは、次々と落下傘を開いて、それぞれの培養に適した地を目指している。
 しかし、焦る落下菌は、なぜか落下傘が開かない。落下傘が壊れたのだろうか。そんなことがあるだろうか。落下傘を開いて降りるのは、この菌の元から備わった機構であり、能力であるはずだ。
 落下傘が開かないなら落下菌ではなく、墜落菌だ。
 運よく、シャーレに着地しそうだから、きちんと同定、並びに「墜落菌」と呼んでくれたまえ、そこの学者。

落下菌/立花腑楽

 雄弁な神様は言葉で以て神意をお示しなさるが、もちろん天上には寡黙な神様だっておわすわけで。
 ことにその偏屈さで名の知れた某神様などは、口を開くのが大層億劫なうえ、迷える子羊たちを端から馬鹿にしているらしく、よりにもよってカビを使って啓示を下される。
 彼に仕える預言者たちは、空から降ってくる啓示(という名のカビ菌)を受け止めるため、常に寒天培地を張ったシャーレを懐に忍ばせているのだそうだ。
 カビ菌がどうして神意伝達のツールとなり得るのか――それはこの宗派における秘事中の秘事というわけだが、他宗派の預言者などは「知りたくもないし、別にどうでもいいのだが、あれでよく間違いが起きないものだ」と訝しんでいる。
 実際に、この宗派内では教義論争や異端審問など滅多に発生しないし、信徒が神罰を被ったという話も聞かない。
 それどころか、神領も年々順調に拡大しているそうなので、かの偏屈な神様の大御心は意外と的確で、しかも粗漏なく信者たちには伝わっているということなのであろう。