2019年11月16日土曜日

螺旋高楼/立花腑楽

 螺旋階段を登り切ったところで眺望が開けた。
 真っ青な空の下、遠くで富士山がきりりと輪郭を保持している。
 それを眺めながら深呼吸すると、ぐらり、足元がほんの少し揺らいだ。
 他の参詣者は「はてな」という顔をしている。あるいは気の所為と思ったかもしれない。
 だけど、その理由をぼくは知っている。
 この五百羅漢寺のさざえ堂、実は少しずつ成長しているのだ。
 霊峰富士を一目見ようと、毎日毎日、多くの参詣者が螺旋階段をぐるぐる登る。その勢いにつられ、螺旋階段自体もちょっとだけ回転する。
 回転すれば前に進む。それが螺旋というものだ。
 螺子を回すように、さざえ堂は今日もぐりぐり空を掘り進む。
「そのうち、ここから富士の火口だって見下ろせるようになるかもな」
 そう思った刹那、「今に見ておれ」と言わんばかりに、また足元がぐらりと揺れた。


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『点字物語「天の尺」~手すりで繋がる北斎の娘と私たち~』
葛飾北斎 五百らかん寺さざゑどう より
2019年11月東京スカイツリー天望回廊にて展示