絶対に手を出すまいと思っていた薬の小瓶を前に、私は胡乱な動きをしている。かれこれ三日間も。
瓶の中は、虹色の液体……美しく零れたガソリンの如き。おおよそ人が飲むものには見えない。
これを私に押しつけた人物は、わが国でもっとも高名な詩人だ。
「致詩性の毒」
噂には聞いたことがあった。
「私は十分に老いた。まだ死ぬつもりはないが、詩を書くのに毒は必要なくなった。次にこれを使うべき詩人は、貴方しかいない」
シミと血管の浮き出た手から、受け取ってしまった。老詩人は、親切にも、薬の増やし方まで教えてくれた。
この国民的詩人は、これを一体いくつ飲んだのだろう。
私は、この国のための新しい歌の詩を依頼されている。できれば断りたい仕事だった。私の作風には合わない依頼なのだ。だが、あの老詩人が私を是非にと推薦したという。
「貴方も長生きしなさい。そして、次の詩人にこれを託すのです。この毒に侵されたまま詩人が死ぬのは、あまりにも不幸だ」
老詩人の言葉をもう三日間も反芻している。