2020年4月22日水曜日

道にエビフライ/五十嵐彪太

 引っ越してまもなく、駅までの道にしょっちゅうエビフライが落ちていることに気が付いた。
 揚げたてと思われるエビフライがアスファルトに落ちているさまは滑稽で、初めて見た時は大笑いしながら帰って家族に話したものだ。
 ところが、それが二度三度となり、家族からも同じく目撃情報を聞くと不思議を通り過ぎて不審に思うようになった。
 だがそれも一時で、間もなく「いつものこと」として慣れてしまい、気にならなくなった。
 事態が変わったのは、娘の「目撃情報」だった。エビフライを咥えて走り去る動物を見たというのだ。
 もう暗くなりかけていたが、家族全員でその動物が去っていった方を探索することにした。ちょっと思いついて、急いでエビフライを揚げて、それも持って行った。
 娘が指さした方角は、まだ散策したことがなかった。急に家も街灯も少なくなって寂しい道だった。しがみつく娘を引き寄せ、見回しながら歩くと、やはり。小さなお稲荷さんに、汚れたエビフライ一本と、きれいな油揚げが一枚。誰にでも好物はあるのだ、きっとどこかでエビフライを盗……いや、拝借してくるのだろう。
「時々、エビフライ持ってお詣りに来ようね」