2020年11月3日火曜日

都市散骨/立花腑楽

 街はすっかり痩せ衰えてしまった。
 人があまり死なぬから、肥料が足りぬのだ。
 早晩、腹をすかした街は人々を食うようになるだろう。
 そのことを理解しているのは、今のところ、零細民たちだけだ。何しろまっさきに食われるのだろうから。
 だから彼らは、まるで街の空腹をなだめすかすよう、毎夜、同胞たちの骨を撒く。
 一級市民たちの目に付かぬよう、少量ずつ、ひっそりと。
 撒き散らされた骨灰が、卒塔婆みたいなガス燈に燐を灯す。その幽き灯りに、零細民たちはしばしの安堵を得る。