「父ちゃん、巻層雲、採れた」
「おおー、これはいい巻層雲だ。きれいに採れたなあ」
6歳になる息子は、雲狩の能力を私の親父から受け継いでしまった。
親父は孫の顔を見ることなく死んだから、息子は誰に教わるわけでもなく雲狩りの技術を日々伸ばしている。
父である私にはさっぱりその力はない。親父からも息子からも採取した雲の標本を自慢され、それを整理するのが間に挟まれた私の役割となってしまった。
本当は、息子に雲狩になって欲しくなかった。親父は秘密裡に台風やハリケーンの制圧を幾度となく頼まれた。あまり長生きできなかったのも、大きな台風に挑んだ際に負った怪我が祟ったからだと思っている。
台風情報を見ながら息子が呟く。
「おれ、もう少し大きくなったら、台風やっつけに行かなきゃいけないよなー」
なんとも曖昧な返事をしながら、気象予報士の試験勉強をしてみようかと考える。それくらいしか、息子を支える方法を思いつかない。