2020年10月10日土曜日

雲狩/立花腑楽

  雲は岩の根より生じ、長い長い熟成期間を経て、やがて神話となる。
 もっとも昨今では、あまり熟成の長さなんて問題にしない。
 みんながみんな、自分自身の神話を欲しがってて需要超過なのだ。
 熟成など待っている暇もない。編纂所に持ち込まれた雲は、ほんの一晩だけ漬けこまれた後、即席神話として出荷される。
 俺ら雲狩人も大忙しだった。毎日毎日、峻険に分け入り、湧き出たそばから雲を狩り取っていく。
 おかげで、ここいらの雲はあらかた取り尽くしてしまった。
 連日、灼けるような旱天が続いている。作物はすっかり立ち枯れている。
 立ち枯れそうなのは俺だって同じだ。雲が狩れないと、飯が食えない。
 ここいらが潮時だろうか。
 雲ひとつない空の下、俺は旅具を背負う。広い世界、まだどこかに雲出づる山はあるだろう。