2019年7月5日金曜日

嗜好回路/五十嵐彪太

 我が家には、贅沢三昧のロボット型掃除機がいる。どう考えても不良品、ポンコツ中のポンコツなのだが、家族のだれもが手放そうとか、メーカーに文句を言おうとか言いださない。
 このロボット掃除機は、吸い込むのは、イクラとかウニ、キャビアとかフォアグラ。つまり、嗜好性の強い、お高い食材ばかりを吸い込む。
 それは、この間の正月のことだった。うっかり箸から転がり落ちたイクラ一粒を見つけたロボット掃除機君、すかさず起動、あっという間に吸い込み、しばし沈黙し、そして……踊った。部屋中をクルクルと楽しそうに走り回った。
 その後、埃や髪の毛は一切吸い込まなくなってしまった。家族は、面白がってさまざまな食材を与えた。差し出すと吸い込まないので、わざと「落っことした」ように装う。滑稽である。
 米は取り寄せた高いのなら食った。海産物は魚卵は特に好きなようだ。白子もイケる。
 あれは食うか、これは食わぬかと面白がって実験しているふうだが、要するにロボット掃除機のおこぼれ?を狙って人間が食いたいのだった。
 いろいろとマズイことになっているのはわかっている。特に財布が軽くなっているのは由々しき事態だが、今日も家族総出で高級スーパーに出向く。