他者と顔を合わせない。鏡も見ない。
そんな生活が長くなると、輪郭が曖昧になっていく。
人型を維持する機能が退化するからだ。
もともと見た目なぞ頓着しない連中なのだが、里の人々から化け物扱いされ、隠遁生活を脅かされるのも困る。
そうした背景があって、近隣に住む隠者同士、定期的に会合を開くことにしていた。人型維持機能の活性化が目的である。
「あなたのその鼻。人間の鼻はそんなに長くない。いい加減なものをぶら下げててはいかん」
「いや、こんなものではないか。随分前に見た里の男衆も、こんなものでしたぞ」
「どうにも、もっともらしい鼻の形が思い出せん」
「お、竹林さんの鼻がちょうどよさそうに見える。一同どうだろう、彼の鼻をお手本としてみては」
「賛成、賛成」
斯くして、隠者の顔なぞというものは、古今東西、大概は似たりよったりになってくるのであった。