人嫌いが高じて、隠遁生活四十年。名前も年齢もよくわからなくなった。
だが、この集まりにはどうしても行かないといけないような気がした。
会場は人里離れた森の洞窟。隠者が集まるのにちょうどいいちょっとした洞窟だそうである。誰が見つけたのだろうか、まあ、それはよい。
問題は集合日時である。暦だの刻限とは無縁の生活をして長いが、元々は几帳面な質であった。今日は何月何日で、集まりの日付は何月何日で、毎日のように確かめずにはいられない。
風呂も身形も気にしていなかったが、遠出するには身支度が必要だ。少ない荷物の中からようやく当日着ていく衣服を決め、そこから毎日、身体を濯いだ。
ひさしく乗り物にも乗っていないので、これも毎日経路を調べ、最寄り駅から洞窟までの道順を確かめた。
そして、いざ会場へ。自分と似たような小汚くも奇妙に小奇麗にした人々が、もじもじしながら洞窟の中で俯いている。
「では自己紹介を。お名前は?」と促されるが、蚊の鳴くような声で「忘れました……」と次々言う。最後の一人も「忘れました……」
ここでようやく洞窟内に安堵と連帯感がほんのり生まれる。