2020年12月27日日曜日

徒手空拳クッキング/立花腑楽

 珍しく祖母が台所に立っていた。その日は母が出かけて居なかったのだ。
 しぃーってしながら手招きするので、近寄ってみる。
 俎板に一羽の兎が横たわっていた。
「しめこ鍋、っちゅうんじゃけどね」
 久しぶりに聞くしゃきしゃきの姐さん声だった。呆けてからはついぞ聞いたことがない。
 包丁は母が隠しているので、どうするかと思ったら、素手で剥いていくのだ。
 手足の付け根をぱきぱきと折り、どこをどうぞりぞりしたのか知らないが、あれよあれよという間にお頭つきの毛皮と、きれいにばらばらにされた肉身が取れた。
 結局、そのしめこ鍋がどんな味だったのか、よく覚えていない。
 ただ、肉を引き裂くときの爪がやたらきらきらとしていたのが印象的で。
 彼女の骨上げのときに、骨片に混じってそのきらきらが残っていたものだから、ああ、あれかと一人合点したのである。