珍しく祖母が台所に立っていた。その日は母が出かけて居なかったのだ。
しぃーってしながら手招きするので、近寄ってみる。
俎板に一羽の兎が横たわっていた。
「しめこ鍋、っちゅうんじゃけどね」
久しぶりに聞くしゃきしゃきの姐さん声だった。呆けてからはついぞ聞いたことがない。
包丁は母が隠しているので、どうするかと思ったら、素手で剥いていくのだ。
手足の付け根をぱきぱきと折り、どこをどうぞりぞりしたのか知らないが、あれよあれよという間にお頭つきの毛皮と、きれいにばらばらにされた肉身が取れた。
結局、そのしめこ鍋がどんな味だったのか、よく覚えていない。
ただ、肉を引き裂くときの爪がやたらきらきらとしていたのが印象的で。
彼女の骨上げのときに、骨片に混じってそのきらきらが残っていたものだから、ああ、あれかと一人合点したのである。