新年、家族それぞれに黒い紙が配られる。黒地図だ。始めは真っ黒だが、通ったところだけ自動的に地図が現れる。
それぞれの学校や仕事先、いつも行く店は真っ先に出現する。だんだんと見える範囲が広がっていく。
末の弟の行動範囲が意外と広いことに驚かされ、こっそり飲みに出かける父の所業も丸見えだ。
家族が一番楽しみにしているのは、元野良の猫の黒地図だ。「もう野良ではないのだ、外は危険がいっぱいだから家にいるように」と言い含めるのだが、やはり散歩に出てしまう。黒地図を毎年与えているくらいだから、人間のほうこそ猫の散歩が気になっているのはお見通しなのだろう。説教を聞かないはずである。
猫は人間の家族は誰も通ったことのないようなところに出掛けている。猫の黒地図から教わることは多い。たとえば、近所で一番の豪邸のあの家の裏の道には、いつも煮干しが捨ててあること、などだ。