これが最後の一本となってしまいました。
私のこの想い、汲んでいただけましょうか。
蛸壺より愛を込めて。
また、蛸から恋文が届いた。
今回も立派な蛸足が一本添えられている。花魁が意中の相手に小指を送るようなものか。肉厚でぷりぷりしていて、相変わらず美味そうである。
それにしても、足をすっかり無くした蛸の頭だけが、みっちり蛸壺に収まっている様を想像すると、何だか哀れである。
どれ、これまでの手紙も読み返してみようかと文箱をひっくり返す。
これが、今回のも合わせると何と九通もあったのだ。
これは困った。ミステリーだ。
困ったなりに、私は最低限の礼儀として「大変に美味しゅうございました」とだけ返書をしたためる。