2021年1月13日水曜日

蛸/立花腑楽

 これが最後の一本となってしまいました。
 私のこの想い、汲んでいただけましょうか。
 蛸壺より愛を込めて。
 
 また、蛸から恋文が届いた。
 今回も立派な蛸足が一本添えられている。花魁が意中の相手に小指を送るようなものか。肉厚でぷりぷりしていて、相変わらず美味そうである。
 それにしても、足をすっかり無くした蛸の頭だけが、みっちり蛸壺に収まっている様を想像すると、何だか哀れである。
 どれ、これまでの手紙も読み返してみようかと文箱をひっくり返す。
 これが、今回のも合わせると何と九通もあったのだ。
 これは困った。ミステリーだ。
 困ったなりに、私は最低限の礼儀として「大変に美味しゅうございました」とだけ返書をしたためる。