2021年6月6日日曜日

発泡性幽霊/立花腑楽

 点滴されると、冷たい薬剤がすっと体内に侵入してくるのがわかる。
 幽霊に取り憑かれるのも、その感覚に似ている。
 幽霊は液状なんだと私は思っている。濁ってたり澄んでいたり、さらさらだったりとろとろだったり。
 とりわけ面白いのは、発泡性の幽霊に取り憑かれたときだ。
 幽霊は私の魂にしがみつく。ぷちぷちと弾ける気泡が、冷たく繊細な棘みたいに私を苛む。
 それは爽快感を伴う不思議な痛みで、ずっと飼い殺しにしてきた古い記憶の扉をノックする。
 ただ、幽霊の発泡はそんなに長くは保たない。
 しゅわしゅわと気が抜けたあとでは、他の凡庸な幽霊と何ら変わるところはない。
 一抹の名残惜しさを覚えながらも、私は気の抜けた幽霊を冷淡に放逐する。
 まるで断末魔のように、あるいは品のない噫のように、最後の一粒の気泡がぷちっと弾ける。