「成仏する方法が、わからないのです」
と幽霊は泣く。有名な僧、霊能者に頼んでも駄目。インチキそうなものから大仰なものまで、ありとあらゆる加持祈禱の類を試したが、ちっとも成仏しないのだという。
何か未練があるのか、心当たりはないのかと尋ねるが、大往生の103歳だったのだという。眼前の幽霊は、どうやら自身の「一番麗しかった頃」の姿であるらしく、とても百年以上生きたようには見えぬのだが。
「では、好きだったものは? 日々の楽しみだとか」
しばし考えたのち、「お風呂……お風呂に入りたい。しゅわしゅわの入浴剤を入れて……」
すぐに湯を沸かし、入浴剤を三個も入れた。咽かえるような人工的な柚子の香りの中、湯舟に浸かった幽霊は「ああ、極楽極楽、じょんのびじょんのび」と言うと、みるみるうちに老人の顔になり、穏やかそうに揮発していった。