2021年8月22日日曜日

暁のメリーゴーラウンド/五十嵐彪太

  私の生家は遊園地だった。両親がコツコツ建てた観覧車、ジェットコースター。どれも小さく素朴なもので、24時間稼働したままだった。一度止めると動かし方がわからなくなるのだと父は笑った。それでも点検は入念で、停電しても止まることはなかった。
 私は回るティーカップの上で食事を取り、メリーゴーラウンドの馬車の中で宿題をし、そして眠った。
 毎朝、太陽が出るか出ないかの頃、幻を見る。馬車の前を走る馬は昼間のギクシャクした動きからは想像もつかないほど生き生きとしている。その馬に、王子が跨っている。
 「もうずいぶん走っているのに、城に辿り着かない」と王子は呟く。そしてこちらを振り返って「姫、長旅になって相済まぬ」と言う。私は寝ぼけたまま「きっともうすぐ城が見えます。心配には及びません」と言う。父母に教わった通りの抑揚で。王子が頷くのを見ると、再び目を閉じる。
 高校卒業を控えていたある朝、ついに「姫、城が見えました!」と王子が叫んだ。メリーゴーラウンドは徐々に速度を落とし、私の生家を彩っていた電飾は消えた。