2022年11月16日水曜日

開封の儀/五十嵐彪太

  和紙の封を破る時には少し緊張する。丁寧に剥がすのではなく、豪快に破くべしと教わったのでそのようにするが、果たして正しく豪快だったかどうか。自信はない。
 桐箱の蓋には何か墨書してある。崩して書いてある上に掠れているから読めない。読もうと思えば読める気もするが、読まない。
 桐箱の蓋は身にぴったりと吸い付いて、持ち上げる時に一瞬抵抗を感じるものの動き始めてしまえば音もなく持ちあがる。眩しさに目をつむる。
 眩しさの正体は鬱金染めの布なのだが、奇妙に輝いている。それをを引っ張り出し布包みを開けば、また桐箱。外の桐箱より古いはずだが、外気に当たらないせいか生々しく見える。
 桐箱の蓋を開けるとまた、鬱金染めの布。一段と眩い。それをめくるとやっと漆塗りの小箱が出てきた。そっと振ってみると「まあだだよ」と聞こえた気がしたので、今年もここでおしまい。また箱に仕舞っていく。あんなに輝いていた鬱金染めの布は気落ちしたのか、忽ちただの黄色い布になった。