2022年11月27日日曜日

乗り過ごし/立花腑楽

  知らぬ間に「明日」になっていた。私はまだ、「今日」から下車できない。
 だいぶ酔っていたが、私の本体は無事、家に着いただろうか。布団の中で、明日を迎えることができただろうか。
「どこまで行かれますか」
 車掌に問われたので、行けるところまで行ってみたいです、と答えた。
「そういうわけにはいきません。次の駅で降りてもらいます。折り返し運転はありませんが」
 車窓は真っ暗で何も見えないが、ちかっちかっと光るものが後方に流れていく。「名残惜しい」を景色にすると、きっとこういうことだろうと思った。
「この子も次で降ろします。一緒に連れ帰ってあげてください。もう随分前から乗っているんですよ」
 十数年前の、愛犬を喪ったあの晩の幼い私が、不貞腐れたように俯いていた。