水が透明すぎて、かえって不気味な印象を受ける。生き物の気配が希薄なのも一因かもしれない。
「魚が、居ませんね」
私の問いかけに応じて、船頭が振り向いた。のっぺりした革袋に、目鼻口の線をおざなりに引いたような顔をしている。
「そんなことはありません。そのあたりをようくご覧なさい」
船頭の指し示す水面に目を凝らす。確かに、細い雑魚の一群がちらちらと泳いでいる。
「魚だけではありません。ほら、そこにも」
今度は右手側、葦が茂っているあたりを指差す。いつの間に居たのか、鷺に似た鳥がぎゃわぎゃわと騒ぎ始める。
葦に鷺など、どうにも構図が整いすぎていて、妙な気分だ。
「ほら、ここにも」
舳先にぴょこんと蛙が飛び乗ってきた。六本脚で尻尾がある。
「ここいらの生物群はディテールが甘いようですね」
私がそう皮肉を言うと、顔面の線を一層曖昧にしながら、船頭はぼそぼそと言い訳めいたことを口にした。