「粗末な棺桶のよう」だと思った。濃過ぎる霧のせいで、川面の境もよくわからない。
そこを、ひとつ、またひとつ、泥と藁でできた舟が流れていく。
川の水で崩れてしまわないのが不思議だった。
泥の舟は、人が横になれそうな大きさがあった。いっその事、死体でも横たわっていたほうが、似合いの光景に思える。
私はその泥舟を見送る仕事を任されたのだった。
どこで誰に頼まれたのか、報酬はどれくらいでいつ貰えるのか、全く覚えていないから、本当に自分の仕事なのかどうか、怪しくなってくる。
だが、今することと言ったら、この流れてくる泥舟を見るくらいしかないのも事実だ。湿った灰色の景色に暗い川。泥の舟。他に何もない。何も見えない。
どれくらい時間が経ったのだろうか。流れていく泥舟を数えては止め、また一から数えては飽きを、もう何百と繰り返した気がする。
次にやってくる舟に、乗ることにしよう。