谷田さんは萎縮しているように見えた。それは病状が気がかりなのではない。やましさを隠そうとしているのだ。
それを分かっているので、私はことさらに憮然とした顔つきになる。
「症状は胃の不調。食事後、すぐに空腹感を覚える。そうでしたね」
「ええ、まぁ」
谷田さんは肥満体型で汗かきだ。首筋の汗をハンカチで拭いながら、ふぅふぅ答える。
「こちらも色々と診ましたがね、肝心の胃が見当たらないんじゃ話にならない。あなた、虚空健康法やってるでしょう。なぜ問診時にちゃんと言わないんですか」
厳しい口調で畳み掛けたが、半ば予期していたらしく「えへへ」と笑いやがった。むかつく。
虚空健康法は最近の流行だ。患部の治療のみならず、“管理”や“運営”までもを、「虚空」にまるっと委託するのだという。そんなもの、うちみたいなカタギの病院では到底サポート致しかねる。
「紹介状を書きます。あちらの病院に行ってください。▊▆▇▅▄君、書面の用意を」
▊▆▇▅▄君の触手にメモを渡す。
彼(あるいは彼女)は新人看護師で虚空の出身者だ。虚空語を読み書きできるので、こんなときはとても重宝する。