「お前になんざ、鐚一文、出さん!」
何があったのか鐚銭には全くわからないが、オッサンたちが怒っているのだけはわかった。そして、一度言ってみたかったことを言ってみた。
「あのぅ、鐚二文でも駄目ですか。仲間を連れてきますんで」
オッサンたちはキョトンとしている。
「え、いや……鐚銭が喋ったぞ、おい」
「はい、鐚です。鐚一文じゃ不足というなら、二文でも三文でも。すぐに揃いますんで」
「鐚、あー、あれだ。その、『鐚一文出さない』っていうのは、つまり例え話みたいなものなんだ」
「鐚、お前さんには悪いが、鐚がいくら集まっても、やっぱり『鐚一文、出さん』し、『こんな鐚、受け取れるか』には変わりなくて、な」
オッサンたちは、目を白黒させながら、いろいろと説明するのだが、鐚にはやっぱり納得できない。
「じゃあ、あっしら鐚銭はどうすればいいんでしょうか」
「弱ったなあ、オイ。どうすればって、鐚銭は鐚銭。いくら集まっても価値は……」
「オット、いや、鐚にだって、存在意義はあるはずだ、ほら、その……」
オッサンたちは、顔を赤くしたり青くしたりしながら、鐚銭を慰める。
「ええ、もういいっす。旦那方、喧嘩のたびに、鐚銭を引き合いに出すのはよしてくだせえ」
オッサンたちは、顔を見合わせ「参った参った」と、笑い出した。