夕立に襲われたので、慌てて電話ボックスに避難した。
扉を閉めてしまえば、滝のような雨音はもう聞こえない。雨曝しの小さな箱の中で、ぼくの心臓音だけが喚いている気がする。
手と顔を拭う。それだけで小さなハンカチはびしょびしょで、雨に洗われる街の様子をガラス越しに眺めるより他、ぼくのすることは何もなくなった。
輪郭の無い世界で、人々はせかせかと帰路を急いでいる。
帰るところなどないぼくには、その滲んだ色彩たちがちらくら動く様が、何だか無性に辛かった。
ポケットの中の小銭を公衆電話にありったけぶちこんで、でたらめにダイヤルする。
「ハロー。ご用件をどうぞ」
「雨が降ってても、この世界はやはり眩しすぎるみたいです」
「オーケー。でしたら、別のプランをご案内いたします」
パチン。
夢が醒める。私は相変わらず、蛹の中でドロドロしていた。
蛹の中では、外の世界は覗けない。だけど、さぁさぁと雨音が聞こえてくる。
音声と映像とが入れ替わった夢を見ていたのだなと、何となく検討はついた。
羽化まであとどれくらい待てばいいのだろう。また少し眠くなってきたようだ。