「こんでんえいねんしざいのほう、こんでんえいねんしざいのほう」
学級委員長の長谷川さんが唱える呪文に、がしゃん、タンバリンの音が唱和する。
このリズムはあれだ、父さんがたまに口にするあれだ。どんどんよくなるほっけのたいこ。意味はもちろんわからない。
わからないと言えば、何で長谷川さんたちがこんなことをしてるのかも、よくわからない。
こんでんえいねんしざいのほう。そして、がしゃん。
教壇に立つ長谷川さんは、先生よりも先生らしく見えた。
朗々と呪文を唱えながら、取り巻きたちに指示を出す。
かっかっかっかっと、色とりどりのチョークが黒板を舞う。
出来上がったのは、雑で下手っ糞で、でも分かる。図画の資料集で見た、ピカソのゲルニカの模写だ。
取り巻きたちがのぼせた赤ら顔をしている中、長谷川さんはこっちを見て、メガネの奥でにかりと微笑する。
たぶん、この不思議な儀式の意味がわかるときが来たとして、でも長谷川さんのこの微笑の意味がわかるときは、未来永劫、絶対に来ない気がした。