酔った男に話しかけられた。
聞けば、骸職人なのだという。
一杯奢ってくれるというので、彼の仕事上の愚痴に付き合うことにした。
「明後日までに10体納品しろってんですからね。もう、鎖骨を穿くしかないですよ」
「取引先の担当者、これがまたいい加減な男でして。鎖骨を穿かせるのも大概にしろと言いたいです」
この「鎖骨を穿く」という言葉が、彼の話の中で頻出した。
業界特有の言い回しなのだろうか。何となくネガティブな印象は感じ取れるが、その使用パターンが多様過ぎて、今ひとつ意味を掴みきれないでいる。
鎖骨を穿く、鎖骨を穿く、鎖骨を穿く……。
何度も聞いているうちに、何だか腰から下の骨がごちゃがちゃごちゃがちゃ、ややこしく絡まっていくような感覚に陥った。
いつの間にか、私も鎖骨を穿かされてしまっていたらしい。
その晩、私とその男は大いに意気投合し、足腰が立たなくなるまで痛飲した。それこそ、腰骨を穿いてるのだか鎖骨を穿いてるのだかも覚束なくなるほどに。