夜明けのちょっと前に出かけた祖母が、朝陽とともに帰ってきた。
額に少し出血している。
「シュウちゃん、ただいま。ちょっと絆創膏持ってきてくれる?」
鏡も見ずにぺちんと絆創膏を傷口に貼りつけ、そのまま何事も無いようにエプロンを身につける。
「もう朝市が開いてたからね、帰りに寄ってみたの。見てよこのワカメ、安かったのよ」
丁寧に出汁を引いて、ワカメの味噌汁を拵える。
お米を研いで炊飯器にセットする。
グリルの中で、アジの干物がブチブチと鳴いている。
朝の気配は乳白色だ。朝餉の湯気の色だ。それが瞬く間に食卓に満ちていく。
「今朝のはちょっとキツかったから寝直すわ。パパとママが起きたら、そう言っておいて」
我が家が誇るパーフェクトレディは、大あくびをしながら寝室へと帰っていく。
祖母が世界を救ったのはこれで五度目なのだが、いっつもこんな感じなのである。