朝早く目が覚めた。ばあちゃんが帰ってくるぞ! と口に出して言ってみた。
先月帰ってきた隣のチヨばあちゃんは、うちのばあちゃんよりも七つ年上だけど、出掛ける前よりずっと元気そうだった。迎えに行ったじいちゃんのトラックの荷台で、高々と花束と杖を掲げて「帰ったよー!」と叫んだ。
向かいのハナばあちゃんは、照れくさそうに、でも堂々と、愛用のスカーフを振り回してみせた。
待ちに待った、うちのばあちゃんの凱旋だ。昨日の夕方、父ちゃんが「じゃ、ばあちゃんを迎えに行ってくる」と神妙な顔で出て行った。うちのばあちゃんは何を振り回すんだろう。
外に出てみると、大通りには「トヨちゃんおかえりなさい」と横断幕が掲げられている。町のみんなが出てきてソワソワしている。
父ちゃんのトラックの音が聞こえてきた。「トヨちゃ~ん!」「おトヨさん~!」一斉に声が上がった。
ばあちゃんは得意満面の笑みで、紫色の傘を開いたり閉じたりして歓声に応えた。「ただいま~!」と、ばあちゃんは傘を大きく振り回した。こんなに大きな声を出すばあちゃんを初めて見た。
この町ではこうやって、老女が出掛けていき、帰ってくると盛大に迎えられる。どこに行って、何をしてくるのか、大人は教えてくれない。家に帰ってきたばあちゃんは、ソファで鼾をかいて眠っている。近づくと、香水の匂いがした。