2019年12月7日土曜日

真昼の帳/五十嵐彪太

 欠伸をしながら「そういえば」と思い返す。この子は、生まれて半年くらいから、昼夜の逆転した性質を見せ始めていた。
 育児情報に「明るい時間に起きて暗くなる時間には寝る」と書いてある時期に、この幼子は昼間のほうがまとまってよく眠ることが多いようだと感じていた。けれど、あまり気にしないようにした。この子はこの子のリズムがあるのだろう、と。
 昼の睡眠がメインであることに確信が強まった頃、こちらの体力気力も限界に達した。昼間眠らせまいと、あの手のこの手を試みるが、機嫌を損ね、まもなく体調も不安定になった。
 やがて言葉が出始めると、なぜ母も父も昼に寝ないのだと疑問を呈するようになった。
 午前8時。布団の中で、本を読んで聞かせていた時だった。
『夜の帳が下りる頃……』
「トバリって何?」
「えーと、大昔のカーテンみたいな布かなあ。これは『夜になる』をかっこよく言ってるんだよ」
「夜じゃないよ。お日様が、カーテンみたいなの持ってくるよ、ほら」
 起き上がって窓の外を見せる我が子。世界には輝く紗がかかっていた。この子は、産まれた時かからこの景色を見ていたのか!
 合点した途端、明るすぎて、眩しすぎて、強烈に眠たい。