「猫を釣りに行ってくる」
そうケンタは言った。
ランニングに短パンで、おまけに麦わら帽までかぶってる。「夏の小学生」という概念が、そのまま具現化したようだ。
おもしろそうなので、その猫釣りに連れて行ってもらうことにした。
大急ぎで大きなおにぎりをふたつ拵える。
潰れ梅干しをぎにゅうとおにぎりにめり込ませながら、
「で、猫ってのはどうやって釣るものなのかね」
そう聞くと、リュックの中からご自慢の七つ道具が開陳された。
猫じゃらしに鰹節、マタタビ粉。その他、得体のしれないびよびよびらびらな玩具たち。
なるほど、装備は万全らしい。
よしそれじゃあいざ出発、という段になって、ケンタセンパイからありがたい訓示を頂戴する。
「猫を釣る猫を釣るぞって、そればっかり考えてると、逆にこっちが釣られちゃうんだよ。やつらの尻尾に注意して」
じゃあ短尾種の猫はどうなんだろう。そんな益体もないことを考えていたら、
「食うか食われるかの世界なんだ。もし、お姉ちゃんが危なくなっても、ぼくは助けてあげられない」
何だか聞き捨てならない不穏なことを言い出した。