2020年1月18日土曜日

猫を釣る/立花腑楽

「猫を釣りに行ってくる」
 そうケンタは言った。
 ランニングに短パンで、おまけに麦わら帽までかぶってる。「夏の小学生」という概念が、そのまま具現化したようだ。
 おもしろそうなので、その猫釣りに連れて行ってもらうことにした。
 大急ぎで大きなおにぎりをふたつ拵える。
 潰れ梅干しをぎにゅうとおにぎりにめり込ませながら、
「で、猫ってのはどうやって釣るものなのかね」
 そう聞くと、リュックの中からご自慢の七つ道具が開陳された。
 猫じゃらしに鰹節、マタタビ粉。その他、得体のしれないびよびよびらびらな玩具たち。
 なるほど、装備は万全らしい。
 よしそれじゃあいざ出発、という段になって、ケンタセンパイからありがたい訓示を頂戴する。
「猫を釣る猫を釣るぞって、そればっかり考えてると、逆にこっちが釣られちゃうんだよ。やつらの尻尾に注意して」
 じゃあ短尾種の猫はどうなんだろう。そんな益体もないことを考えていたら、
「食うか食われるかの世界なんだ。もし、お姉ちゃんが危なくなっても、ぼくは助けてあげられない」
 何だか聞き捨てならない不穏なことを言い出した。