タオルだけ巻いた身体をぎゅっと縮めて、足の爪先に火をつける。
「危ないから、あっちに居て」と言うのに、息子も娘も猫も覗きにくる。
娘はちょうど「マニキュア」を覚えたばかりだからか興味津々だが、息子は「おかあさん、燃えちゃう」と、それこそ火をつけたように大泣きする。
指一本にマッチ一本。ジャムの空き瓶に、仕事を終えたマッチが一本ずつ溜まっていく。
猫は匂いを嫌って、いつの間にかいなくなり、娘は母の裸足を凝視し、息子は「はやく消して、おとうさん」と泣き叫ぶ。
「もうちょっと、もうちょっと」と夫が言う。
「熱くない?」と娘がさすがに心配した声で訊く。
「もうちょっと、もうちょっと」と私も言う。
「熱くなってきた?」と夫が言う。
「あと五秒…四、三、二、一」
夫が誕生日ケーキの蝋燭よりももっと勢いよく吹き消した。
「わあ! お母さんの爪、きれい!」と娘が感嘆する。
鱗が伸びてきた私の爪先が、ひととき、人間のそれと見紛うものになる。除光液で拭っても、赤いままだ。