「死んで焼場に行くまではお世話するつもりだったけど、信心が足らんかったかねぇ」
足りなかったのは信心ではなくて、カルシウムではなかったか。
ともかく、骨粗鬆症になった祖母に代わり、あたしは骨神様の巫女となった。
ちなみに、母は若い時分にスキーで骨折したことがあるので、巫女の要件を満たしていない。骨神様の依代たるには、健やかな骨組織が不可欠なのだ。
「骨神様は、一等大切な骨に遷座あそばすのさ。ユキは手先が器用だから、きっと骨神様もそのあたりにおわすだろうね」
祖母も含め、周囲の大人たちはそう言った。
然り。骨神様が自身の社に選んだのは、私の右手薬指中節骨であった。
しかし、祖母以上に不信心なこの巫女ときたら、何か気に食わないことがあると、手指の関節を無闇矢鱈にバキバキ鳴らす悪癖がある。
御座所がぐらぐら揺れるものだから、骨神様はそのたびに驚いて、手根骨、尺骨(橈骨経由の場合もある)、上腕骨、肩甲骨、鎖骨を駆け登り、私の中心部にお隠れあそばす。
その御神渡りの感覚に、あたしの右腕はいつも「うひゃあ」となる。