2020年3月1日日曜日

排水溝ロマンス/立花腑楽

 髪を洗いながら泣く。泣く。泣く。
 涙はシャワーに洗われ、シャボンとともに排水溝へと消えていく。
 がぼがぼと私の涙を飲み干した排水溝に、そっと語りかける。
――どうだった?
 シャワーで火照った身体とは裏腹に、心臓だけがしんと冷たい。
――最高だよ。天の美禄だ。
 排水溝から立ち昇るテノールに心臓がゆるむ。
 嬉しい。
 さっき流したのとは別種の涙が溢れそうになるが、ぐっと堪える。こんな涙は彼の好みではない。
 明日も私は地を這うようにして探すのだろう。
 極上の涙の素を。
 私の魂を流血させるような悲しみを。