2020年3月1日日曜日

排水溝ロマンス/五十嵐彪太

 わたしたちは秘密の仲で、逢引き場所にはいつも困っていた。誰にも会わず、誰にも見つからない場所なんて、探せば探すほど、ないものだ。
 でも、ある時、魔女が教えてくれた。二人きりになれる場所と、そこへの行き方を。そして、ちょっとした魔法を、わたしたちは掛けてもらった。
 よくよく身体を洗ってから、排水口も掃除して、そのまま恋人に逢いに行く。
「やっぱり、ちょっと匂うね」と恋人が言う。
「がんばって掃除したのにね」と応える。
 鼻をつまみながら、ちょっとキスをする。
「明日は、漂白剤を使ってみよう」と恋人が言う。
「今度はちょっと塩素臭いかもね」と応える。
 恋人が楽しそうに笑う。こんなに笑ったのは久しぶりだ。そう、こうやって笑い合える場所が欲しかったんだ。