2020年5月9日土曜日

聞き待ち街/五十嵐彪太

 初めての出張、初めての一人旅。初めて聞く名前の街。
 極度に緊張しながら駅前の大通りを歩く。次の交差点、信号渡って、左。
「信号が赤になりました! 注意して渡りましょう!」
 歩行者用信号が青になり、信号機がそう言った。赤って言った。だが信号は青で、車はどんどん走る。どうしていいかわからないまま、信号は黄色になり、赤になった。
「信号が青になりました! 車が通ります! 歩道で待ちましょう!」
 信号機は青と言うが、赤く光っている。車は止まっているが、同じく信号待ちをしているであろう隣の人も歩き出さない。そうこうするうちにまた信号が変わる。
「信号が赤になりました! 注意して渡りましょう!」
 もう本当にどうしていいかわからない。恐る恐る隣の人に話掛ける。
「あのう、この信号、いつ渡れるんでしょうか」
「……」
 声が小さくてよく聞こえない。信号機はこんなに大音量なのに。