夏の夕陽は凶暴だ。私たちの影をやたらと威嚇する。
先日、仕事からの帰り道でのことだ。路面電車を降りた停留所で、かっと強い夕陽に照らされ、私の影はいつになくパニックに陥ってしまった。
慌てて足首を掴もうとしたものの、時すでに遅し。するりと手をすり抜け、影は東へ東へと走り去ってしまった。
これには参った。月末までに連れ戻さないと、監査員からどんな仕打ちを受けるかわからない。
私は職場に理由を説明して、しばしの休暇を貰うことにした。もちろん、己の影を探すためだ。
影のことは影に聞け。
そう考えた私は、街中の影たちに聞き込みを開始する。
が、影たちは、その濃淡によって住むレイヤーが違う。こんな小さな街でも、幾層ものレイヤーを行ったり来たりするのは、全く骨が折れることだった。
おまけに、濃い影たちは朗々と嘘をつくし、淡い影たちときたらぼそぼそと何を言ってるのかわからない。
甚だ信頼性の薄い口コミを頼りに、今日も私は夕闇の街をさまよう。
こうして歩いているうち、例えば、郵便ポストの裏で、所在なさげに私を待つ影に再会できることを期待して。