2020年5月24日日曜日

蛇の手/五十嵐彪太

 爬虫類と思われる右手を拾った。幸い元気そうだ。
 前足と呼ぶには器用そうに動く。私の指をしっかり、だが握りつぶすことなく掴んでくる。子供に懐かれたような感触だ。これは「手」である。そう認定した。
 しかし、トカゲにしては大きく、ワニにしては小さい。もっとも、このあたりにワニがいたら困るのであるが。
 トカゲを見つけるたびに尋ねてみたが、持ち主を知っているというものは現れない。あまり時間が経つと、さすがに手が干からびるのではないかと焦る。日が暮れたので諦めて家に帰った。
 なんと、持ち主は我が家の前で待っていた。それならそうと、早く言ってくれればよかったのに。と思うが、さすがに物は言えぬか。申し訳ないことをした。
 持ち主はトカゲでなく蛇だった。右手を差し出すと、器用に左手で受け取り、ちょっと難儀するも無事に接続した。後ろ足はあるのかと問うと、「手しかない」ことをひっくり返って証明してみせた。そして両手とも器用に隠して、にょろにょろと帰っていった。達者でな。