頬骨の目立つ髭の老人が短い杖を持って歩いている。老人は気難しい顔で短い杖でピシリと紫陽花を指す。美しく立派な、老人好みの咲きぶりだ。
杖で指名された紫陽花は、サッと花色を変えたり……はしない。その代わり、老人の後を歩く老人が小さな如雨露で水を撒く。
如雨露の老人は、ふくよかで目尻が下がった笑い顏である。小さな如雨露はブリキ製のようだ。
杖の老人が指す紫陽花に次々と水を撒く。小さな如雨露だが、水は途切れることなくたっぷりと紫陽花に降り注ぐ。
不思議な老人二人組の目撃情報が全国で相次いだその年、晩秋まで紫陽花が枯れなかったという。