2020年6月14日日曜日

奔馬性書生病/立花腑楽

 書生病には、軟派型と硬派型の2系統が存在する。
 今回の流行で猖獗を極めているのは、どうやら前者に属するものらしかった。
 しかも、奔馬性というのだからたちが悪い。
 街の外れに篤学者として名高いお大尽の家があって、多くの書生さんを囲っていた。
 どうやらそこをゼロ地点として、街中に瞬く間に広まってしまったらしいのだ。
 歯も生え揃わぬ男児から、歯のすっかり抜け落ちた老爺まで、街中の男どもは一様にふにゃふにゃした態度となり、何やら小難しい横文字を使い始めた。
 仕事にも行かず、罹患者同士で虚学を論じあってばかりいるので、その街の生産性はガタ落ちである。
 こりゃいかんということで、市長はあわててワクチンを用意した。以前、硬派型が流行した際に開発したものである。
 しかし、硬派型から作られたワクチンには、被投与者の性格を著しくガサツにするという副作用があった。
 軟派型の罹患者は一様に柔弱な性格になっているから、そのギャップたるや想像を絶するものがある。
 多くの婦人団体が反ワクチン運動の狼煙をあげたのも、それはもう無理からぬことであったろう。