脚は内股気味に閉じられ、腕は頭上に伸ばされていた。
上半身は捻られたような格好のままで死後硬直している。いわゆる「煮干し踊り」と呼ばれる特徴的な死後所見である。
以上により、死因はイノシン酸過剰摂取による中毒死であると推定された。
事故死か、あるいは自殺か他殺か、その判断は検死解剖が終わってからになるだろう。
「先生、イノシン酸以外の旨味成分――例えばグルタミン酸による中毒死の場合も、何らかの特徴的な所見が見られるものなのでしょうか」
勉強熱心な見習い監察医が質問してきた。
「グルタミン酸だと、昆布踊りの様相を呈することが多い。例えばこんな格好だな」
私は自ら昆布踊りの様相を演じてみせたのだが、いまいちリアクションが薄い。
「ちなみに、グアニル酸中毒に特徴的な干し椎茸踊りはこんな感じだ」
これも、わかったのかわからないのか、微妙な反応である。
あの手この手で説明しても上手く伝わらず、私はついに諦めた。
「先生、今度のそれは何踊りですか」
「これか、これはお手上げのポーズだよ」